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(20) 屑鉄オジサン


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この世に生まれイデて40年余り、京都御所のすぐそばに住んでおりました。

幕末ので有名な



へは早足で5分くらいでありました。

”蛤御門”をかくも凝った造りにいたしましたのには、ジツはフカいイミが・・・
ゴ、ザイマンッ


町内には小中学校の教諭、大学教授、東大、京大生などがゴロゴロいる
ソレハそれはハイレベルな地域で、
貧乏で無教養で田舎出の私の家庭なんぞが住むには
マッタクふさわしくない地域でございました。

そのオジョーヒン極まる町内に、私が物心ついたころから
私の家庭よりも数十倍も数百倍も似つかわしくない一家が住みつきだしました。



とはまさにこのこと!

それは家の体を成しておらず、4,50坪の空地いっぱいにうず高く屑鉄を積み上げ、
寝起きはその奥まった狭い狭い小屋のようなところでしているという、
世にも珍奇な一家(奥さんと幼く可愛い娘2人計4人暮し)でありました。


それはもう完全に
した生活

というにフサワシイものでありまして、実際表通りからその”小屋”に入るには
積み上げられた鉄屑の間に辛うじて空けられた”通路”

体をにしてヨチヨチ
せにゃならんかったんでアリマスヨ。
(奥さんや子供はさぞタエガタキを耐えシノビガタキを忍んでおったことでしょう。)

私も一度そうして中へ入ったことがありますが、
小屋の前に洗濯物を干すスペースだけはドーニカ確保されておりました。

近ごろテレビなどで”ゴミ屋敷”がよく紹介されますが、
似ているようでもソレとはゼンゼン違います。
清潔とはいえないまでも不潔ではありませんでしたし、
何より屑鉄が
整然と積み上げられていましたからね。
もっとも手の届かない山の最上部はその限りではなかったデスガ。




場所柄が場所柄だけに景観をソコネルことイチジルしく、
誰もが眉を顰めておりましたが、面と向かって抗議するものはいなかったようです。
(イニシエの京都はもともとそういう土地柄。)

ただ、あふれ出た屑鉄が歩道にまではみ出しているのには、
誰かが通報するのでしょう、オマワリサンから注意されているところを
長年の間にナンドモ何度もモクゲキいたしたものでございます。
(撤去しても、ものの十日もすればモトノモクアミでしたがね。)

年がら年中もうこれ以上は汚れようがないというほどズズ黒くなった
つなぎ服に身を包んでおりまして、
何十年の間に純白姿にお目にかかったのはただの一回キリ!
(その時はオジサンの姿が
眩しいほど異様に輝いて見えた ものでありました。)

ある年など 元旦から鉄屑の山によじ登っておる のを目撃したものです。
つまり年中無休ということでありましょう。

年月を経るに従ってどういうかけかそのおじさんと親しくなっていきました。
それと同時に彼についてもだんだん判ってまいりました。

本職は自動車整備工であること※1。屑鉄はあちこちから拾い集めてくること。
生計はたまに鉄屑を売って立てているらしいこと。
信じがたいことに、なかなかの資産家らしいこと※2等々・・・。

※1 後に私のボロ車の、エンジンを降ろすという高度な修理をしてもらったことがあります。
もっとも車の整備しようにもそのスペースがなく、
モッパラ屑鉄集めに精を出していたみたいですがね。
※2 町内一の裕福そうな事業者に金を貸しているとの噂を耳にしたものです。



さて私に娘ができた頃だったと記憶しておりますが、
夜オジサンが訪ねてきて、明日一日手を貸してくれないか,というので
たぶん友禅の仕事もヒマだったのでしょう、快くOKしたのですが、
翌日の作業は忘れようとて忘れられないものとなりました。

作業現場は我が家から50メートルも離れていない
おじさんのイエの”山”とばかり思っていましたが、
サニアラズして別の場所だったのであります。

案内されたのは歩いて数分のところにある小さな平屋の一軒家で、
(それが持ち家なのか借家なのかは存じません。)
外観はごく普通の民家でありましたが、
一歩中へ入ってみて いたしました。

その内部にも
ナ、ナ、ナントなんとナントォーッ!
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が築かれておったのでございます。

畳や襖は勿論、天井、床といったものがイッサイ取り払われ、

内部空間はどこにも見当たらない

ほど屑鉄でギッシリ埋め尽くされておるではありゃしませぬかぁ!





さてそこでおじさんからウケタマワッタ仕事というのは・・・



つづく






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