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 弱肉強食,飢餓,貧困.病苦,死別,大量殺戮……。

 「全知全能の神様がすべてのものをお創りになったというなら、どうして命の世界はこ
なにも残酷で悲しみや苦しみがいっぱいなんだろう?。」

 誰でも子供のころ、こんな素朴な疑問を抱いた覚えがあるのではないでしょうか。確かに
納得できませんね。如何ようにも思いのままに創造可能なら、最初から命あるものすべて歓
びに満ち溢れた理想世界をお創りになれるはずだからです。

 考えてみれば、これは「子供じみた疑念」として一蹴するわけにはいかない、神の教え
根幹にかかわる重大問題です。愛なる神が悲劇を好まれるはずがないのですから。

 神の教えの伝達者たちは、この当然の疑念に答えなくては己の存立が危うくなりかねま
んから、属する宗教を問わず次のようなもっともらしい回答を用意しているのです。

 「それは、慈悲深い神が人間に自由な心という最高の贈り物をお与え下さったからだ。
もなくば我々は単なる神の操り人形、ロボットに過ぎないではないか。自由なのをよいこと
に、悪い醜い心ばかりを使い世の中を乱しているのは人間の勝手に過ぎぬ。」

 でもこういう釈明が矛盾していることに、当の聖職者ご本人たちでさえ気付いてないよ
です。というのは・・・

 大抵の教えは説いています。いつの日か全人類が心の成長を果しこの世を理想世界にする
のが神の望みであり、またそれが可能であると。

 であるなら、その暁には誰もが自由な心を失っていないはずです。成長して操り人形に
すわけはないのですから。だとすれば、『最初から理想世界を創れば人間が神のロボットに
過ぎなくなる』という神職のお偉方の説くことはオカシイではありませんか。初めから誰も
が自由な心を持ち、かつ理想世界が存在可能なのですから。

 そんなまやかしの理屈に惑わされてはいけません。実はこれにはふか〜い深いワケがあ
のです。それをお知りになりたい方だけ特別にご案内いたしましょう。遠い昔に開かれた天
国の裁判へ。






 見渡す限り花が咲き乱れ、蝶や小鳥に混じってエンジェルが舞い、宝石ばかりで造られた宮
殿が、それはもう眩く輝き聳えています。

 ここは天国の真ん中。宇宙の大王「造物主」様のお住まいであるその宮殿では裁判が開かれ
ようとしておりました。検事役も兼ねる裁判長はもちろん造物主様。傍聴人は天に散らばる星
々を守護する女神たちです。

 さて被告席に立たされているのは。――何と我が母なる星、地球の守護神ガイア様ではあり
ませんか!

 造物主様が重々しく宣言なさいました。「開廷!これより被告を、守護神の掟の第一条違反
により裁くことにいたす。罪状は『怠慢罪』じゃ。」

 ご注意 ; その第一条の条文には『守護神たるもの、生命界の美と調和の発展維持に
       最大限の努力を払うべし。』とあります。

 「ワシは皆も知っての通り、守護を任せておる星ボシの様子を定期視察(定期といっても地
球時間では何百万年)しておるのじゃが、皆それぞれワシの授けた『命の種』を大切に育て上
げ、歓ばしく躍動する命の楽園を様々な形で築き上げており、ワシも大満足で毎回の視察を楽
しみにしておったわけじゃ。」

 ここまで言うと眉間に皺を寄せガイア様に向き直り「ところがじゃ。今回の巡回ではから
ずも発見したのじゃが、久々に地球を訪ねてみてワシはたまげてしまったぞよ。」
あろうことか! 何と命あるもの同士が血みどろの食い合いをしておるではないか。肉を裂
かれる激痛に断末魔の絶叫が嗷ごうと響き、飢え、病い、腐敗,憎しみといったあまたの邪悪
が黒々と渦巻く、それはもう見るも無残な阿鼻叫喚の地獄と堕しておったのじゃ。」

 ここまでのたまいますと、傍聴席がにわかにざわめき出しました。あまりの信じがたい話に
ショックのあまり、中には失神しそうになったり吐き気をもよおす女神様もいたくらいです。


 無理もありません。「花と色と香りに溢れた世界」「食べるもの、飲むものすべてが極上の
味覚の世界」「妙なる調べと歓ばしい歌声に満ちた世界」などなど、それぞれ天界最高の美と
快楽を具現すべく競いあっている守護神様たちには、地球の生命界の姿は正視に耐えない余り
にも惨たらしいものに思えたのでした。

 「静粛に、静粛に!」と裁判長はお続けになりました。
 「ガイアよ。汝はワシの授けた命の種を撒きっ放しにし、その増えるに任せ世話を怠ったば
かりに、こんな目茶苦茶な生命界に至らしめたその責任は重大である。その罪は極刑に値する
ものじゃ。」

 いよいよ裁判長が「神権剥奪」を宣告なさろうとしたその時です。

”お待ち下さい

 と切迫した声が響き、ガイア様の妹、月の守護神ルナ様が誰かを連れて法廷に入ってきまし
た。すると廷内には一斉に感嘆のどよめきが起りました。

 といいますのは、神々の誰もが初対面のその同伴者というのが、それはもう例えようのない
ほど余りにも美しい女神様だったからです。並いる美しい女神たちが、まるでオカメかヒョッ
トコに見えてしまうくらい、桁違いに高貴な美しさに満ち溢れていました。

 万物を創造したはずの造物主様まで「おお何という気高さよ!」と思わず玉座を降りその前
にひれ伏してしまわれたくらいです。

 でも何故か彼女は肩を震わせ泣いていました。その泣き声は造物主様をはじめ神々の魂を激
しく揺さぶらずにはおかない悲しくも崇高な響きをもっておりました。

 ルナ様の説明によれば、地球に命が芽生え、それが「苦しみと悲しみ」の成長するとともに
知らぬ間に彼女も現れ成長してきたというのです。そして以来一時も泣きやむことはなかった
といいます。

 「そうであったか。ガイアよ、これは『怪我の功名』というやつじゃ。この天界至高の美神
を図らずも産み出してくれた手柄に免じて汝の罪は許してつかわす。」

 「じゃが彼女をこのまま悲しませ続けるわけにはまいらぬ。」「掟を破ることになるが致し
方ない。よし!ワシの権限で地球の総ての命を救い祝福してやろう。」

 とのたまい、エイヤッ!とばかり気合いをかけられました。するとたちまちにしてそのよう
になりました。

 しかしどうしたことか女神様の慟哭はおさまりません。怪訝に思いよくよく生命界をお調べ
になりますと、深い深い海の底の岩影の窪みにちっぽけな虫が一匹だけ取り残されもがき苦し
んでおりました。

 「おお、ワシとしたことが!」とその最後の一匹もお救いになりましたところ、何というこ
とでしょう。女神様は忽然と消え失せてしまったではありませんか。

 造物主様はお慌てになりました。 「そうか、彼の女神は生きとし生けるものたちの悲しみ
の結晶であったのじゃ。『悲しみ』がなくなれば消滅するのは道理。」「じゃが


ワシでさえ創造できぬ宇宙の女王を蘇らせ存続させねば、
何がための天界といえようぞ。
可哀そうじゃがやむを得ぬ、


天界至高の女神


を存続させんが為
地球生命に再び永久の苦しみと悲しみを与えようぞ。



 というようなわけで、全能の創造主様のおわしまし、歓喜の世界をお創りになれるにかかわ
らず、この命の世界には、かくも承服しがたい理不尽な苦しみと悲しみが満ち溢れているので
す。

 アッそうそう、この創造主をも超えた至高の美神様を見事に描いた芸術家が過去にたった一
人だけおります。描くといっても画布にではなく旋律にです。

 その名はご存じベートーヴェン。「運命」の第二楽章をお聴きになれば、その中ほどに必ず
やその崇高なお姿を拝していただけることでしょう。

 神について書かれた世界中の宗教書を集め山と積んでも、たった一分余りのその崇高な、余
りにも崇高な旋律には遠く及ばないのです。



女神様の慟哭を聴く


 それにしても造物主様というのは情けないお方ですね。私たち人間どころか、虫一匹にさえ劣る存在
なのですから。つまり虫一匹と至高の女神が同等――




ということ



 エッそんなこと言うとバチがあたるぞって? 心配ご無用、バチならとうの昔にあたっております。



お し ま い




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